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【雑感】刑事弁護の自問自答

(約3500字)

 

 

当番接見*1に行ってきたのですが、私選弁護人を選任済みとのことだったので、受任することなく帰ってきました。
それを聞いた時、具体的状況に照らしてちょっとだけ心配なことがあったのですが、既に上記状況になっている以上は僕がどうこう言うべきことじゃないと判断し、勇気付けだけ笑顔でしてきました。

 


地方と違い東京は弁護士がいっぱいなので、基本、当番は年に数回しか回ってきません。
なので逆に、当番日前後には、ふと過去の弁護活動を思い出したりすることもあります。

 


そんな本日の雑感は、
「どこまで踏み込むかって、難しいよ」
ということ。

 

 

 

どこまで踏み込むか。

実務の多くを占める認め事件*2における量刑弁護のあり方についての見解として、一方の極には、弁護人も被疑者・被告人の方の内省深化・更生を促すことに重点を置くべし、とする考え方がある。
ゆえに、弁護人も被疑者被告人に優しければいいってもんじゃないのだ、むしろ全然違うのだ、と。*3
別に精神論だけの話ではない。
被疑者被告人の利益よりも優先すべき社会的使命がある、という話でもない。更生こそが長い目で見れば被疑者被告人の究極的利益に適うのだ、という話でもない。いや、その種の立場から上記見解に与する向きも間違いなくありはするのだろうが、そういうお考えについては、さしあたりここでは措いておく。
量刑弁護のあり方として、現実的な意味もある。
すなわち、ひとまず公判段階を想定すると、被告人質問において検察官からの反対尋問で無反省が露呈してしまうのは印象が悪い。よって、先行する弁護人からの主質問で、厳しい質問は先回りして聞いておくのが一つのセオリーではある。
これは、口で言うほど簡単なことではない。むしろ難易度は高い。弁護人として刑事弁護をやったことがないとなかなか実感が湧かないところだと思う。
当たり前だが、先回りの厳しい質問に対して何もせんでも模範解答を答えてくれるような被告人なら、そもそも苦労しない。
また、表面的に模範解答を答えただけで済む話でもない。どうせ反対質問で検察官から追及される。「あんたさっき××って言ってたけど、実際には△△したじゃん、言ってることとやってることが違うじゃん」、みたいなやつ。その場しのぎの口先三寸で凌げるほど甘くはない。
要は、公開法廷*4での全供述・全態度プラス全証拠(情状証人の話も含む。)ときちんと整合する形で、百戦錬磨の検察官と刑事裁判官に対し、「ある程度は反省してるみたいですね」、と腹落ちさせないといけない。
そして、そのためには、被疑者段階から落ち着きどころを考えつつ、そこに向かって誘導したり説得するようなこともしないといけない。
無論、それなりの信頼関係が前提になるが、その前提を満たすところからしてハードルは低くない。

 

閑話休題。認め事件における弁護士の活動のスタンスの話です。
そんなわけで、(むしろ)弁護人こそ、ご本人に接するに当たって厳しさを忘れてはいけない、みたいな考え方がある。
それこそが量刑対策上最も有効な実践的手段であるし、その過程で被疑者被告人と膝を詰めて話をし、説得を試み、時には衝突しつつも信頼関係を醸成し、事件について共に振り返り、今後について真摯に話し合うことこそが、被疑者被告人の方の真の更生に資するのだ、これこそが量刑弁護の王道なのだ、と。

 

 

 

 

 

…さて。
仮に上記を法曹以外の方が読まれた場合、どんなふうにお感じになるんでしょうね。これは純粋・率直な疑問です。
熱さを感じてくださるのだろうか。
それとも、反感をお感じになるのだろうか。

 

 

 

 

 

僕自身は、弁護士登録後数年は、上記のようなスタンスでやってました。今でも、理想はそうあるべきだ、と思っています。
ただ、たとえ社会的使命感なり責任感なりから出たものであれ、弁護人だからって*5人様の人生に責任持てるわけではない、それは思い上がりというもんだし、そうである以上、口の出し方にも自ずから限度があるはずだ、とも思っています。*6

 

 

もちろん、言うことは言うってのは前提で、その先の話ですが。
そんなことを考えつつ、「さて、今日のあれは、あれで良かったのかな」、と自問自答しながら電車に乗ってました。

 

 

 

 

 

…と、そしたら、なんともアレな記事が流れてきたのでびっくりした、というお話。
記事内容についてはノーコメントです。悪しからず。

 

 

 

 

 


ふう。
締めくくりに接見関連の豆知識メモ2つ。

 

弁護人選任届の提出先

弁護士的には検察庁に出すことが多い弁護人選任届(弁選)ですが、送検前は警察署に提出します。
(なお、起訴後に出す場合は受訴裁判所に提出することになる。)
送検前である以上、検察庁には事件そのものがまだ来てませんから、弁選持ってこられても受け付けしようがない、という話。
そうである以上、こっちとしては警察に出すしかないし、警察の方で一件記録といっしょに検察に送ってもらうしかない。

 

わりと分かりやすい話のはずなのだが、警察署の方が不慣れで、「えっ、ここで出されても困ります」的な反応をされることもある。
僕の場合、受領拒否をされたことはないですが、「えっ…と、これ、受け取っていいんだっけ?」みたいな反応をされたことはあります。すぐそばにベテランの方がいらしたので揉めずに済みましたが。
上記取扱いにつきストレートに定めた条文はないみたいですが、次の2つの規定は、警察署に提出することがあり得ることを前提に書かれています。よって、これらが根拠規定だと言えなくもない。
覚えておくと話が早いのかもしれない。

刑事訴訟規則17条
:公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。
犯罪捜査規範133条1項
:弁護人の選任については、弁護人と連署した選任届を当該被疑者または刑訴法第30条第2項の規定により独立して弁護人を選任することができる者から差し出させるものとする。

 

…ただ、ここでまごついた場合、今度は、弁護士の側が受領印付きの控えをもらうのを忘れる、ということが起こる。
・弁護士サイド的には、検察に持ってく場合はコピーを印刷して「受領印ください」って渡すけど、警察で提出する場合、そもそもその場で被疑者に署名してもらうから、控え自体の用意がない。
・警察サイド的にも、受け付けること自体が不慣れである以上、当然のことながら、検察庁みたく「控えに受領印押します?」なんて聞いてはくれない。
僕、一回、やらかしました。まぁ控えなんて念のためにとっとくだけですから忘れても支障はないんですが、その時は多少不安になりましたね。気をつけよう。。

 

 

いわゆる微釈について

「送検って絶対されるんすか?」って、時々、被疑者の方から聞かれます。絶対というわけではなく、微罪処分なるものがある。

刑事訴訟法246条
司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

このただし書部分が、微罪処分の根拠になる。各地検が基準を定めていて、「こういうやつは、検事正への報告だけで済ませていいよ」、という取扱いにしてる。
司法試験の勉強的には意外と盲点になりがちだし、基本的には警察内で完結する話なので弁護士業務的にもあんまり絡みがないところですけどね。

犯罪捜査規範198条
:捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。

「検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定」というのは、罪名で指定されている。
なお、告訴告発があった場合については警察官に送検義務があるから微釈はできない。よって、それとの関係上、親告罪は指定罪名から除かれることになる。親告罪は相対的に軽微な犯罪が多いので、ある意味では捻じれてますね。

刑事訴訟法242条
司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。

他方、「犯罪事実が極めて軽微」の部分では、被害額の程度や回復の有無、被害者の処罰感情も考慮されているとされる。

 

 

 

 

 

*1:日弁連のご案内ページは、こちら

*2:被疑事実/公訴事実を被疑者/被告人の方が認めている事件類型。

*3:ホントかどうかは知らないが、昔は被告人質問(主質問)の間中、法廷で被告人を怒鳴りつけ続ける弁護人とかいたらしい。

*4:複数前科ある被告人でも緊張しますからねあれ。

*5:弁護人に選任されることは白紙委任の意思表示なんかじゃないからね、いかなる意味においても。

*6:ちょうどこのあたりのことにモヤモヤしつつもその中身をうまく言語化できていなかった)時、ある先生のこの呟きに接して膝を打ちました。