だから僕は法律を

弁護士業界のありふれたことや、日々の法律ニュースなどを

【法改正】司法試験と刑法改正

(約12,000字、ただし大量の条文込み。)

 

 

 

 

 

 

司法試験について。

実は、水曜(※7/12)から、今年の司法試験中である。
日程はこちらで、2日やって1日休み、また2日頑張る、という感じ。ちょうど今日(※後記:正にこの文章を書いていた日付のことで、7/14(金)。)が中日でお休みに当たる。

 

純粋に日数だけ見れば中日=折り返し地点、なのだけれど、たぶん、受験者の実感は異なる。少なくとも僕はそうでした。
一番の勝負は、2日目、怒涛の民事系三科目なんですよね。覚えることも多い上、ちょうど僕が受けた年(2017年)の前の年からボリューム*1も大幅に増えた。問題の中身はろくすっぽ覚えてないけど*2、本当にクタックタに疲れた記憶だけはある。それこそ、中休みの前じゃなきゃ頑張れないレベル。
で、他方、試験時間だけ見ると一番長いのは1日目。
要するに、前半が超重い。

対して後半は、そもそも最終日が短答ですしね。まぁそこは大丈夫だろ、という感じ。とはいえ僕の場合、蓋を開けたらギリギリだったんですけど 笑
刑事系は一番分量書かなきゃいけないけど、言うて2科目頑張れば終わりですしね。終わりが見えてる分、悲壮感は薄い。

 

 


受験生の皆様、少し早いかもしれませんが、あと少しです。
心から、応援しています。

 

 

 

そんな過酷な司法試験ですが、2026年から、遂に、手書きから決別してCBT形式に切り替えるそうな。
もう3年後じゃないか。
大賛成ではあるのだけれど、いろいろ、どうなるんだろうなホントに。仮に試験時間がそのままだとすると、書ける分量はめちゃくちゃ増えるわけで。
今回の改正理由の一つとして採点負担の軽減が言われているけど、手書きの長大答案を読むストレスがなくなっても*3、量が増えたら意味ないしな。
とすると、時間を減らすんだろうか。時間配分ミスが致命的になるから、プレッシャーが今よりもっと凄いことになるな。
ついでに言えば、二回試験やらロー試験やらはどうなるんだろう。

 

 


変更と言うなら実は今年も、試験時期が2か月後ろ倒しになるっていう大きな変更がされている。
何とも雑な感想で恐縮だが、いろいろ、なかなかの速さで変わっていくなぁ。

 

 


僕個人のまわりで言えば、当業界の某月刊誌巻末情報によると、
・一年目にバッジを外したと思われていた同期が、たぶん、東京で就職して復帰した。
・修習でお世話になった(当時)部長裁判官が定年退官して、弁護士に転身なさった。
みんな元気かな。

 

 

 

 

 

 


近時の法律ニュースについて。

法律をめぐる世の中の動きも慌ただしい。
直近で言うと、今年の受験生が公法系の論文試験を受験する前日というタイミングで、取消訴訟+国賠訴訟に関して、耳目を集める最高裁判決が出た。
その他、大きなところで入管法改正とか、業界的関心(かなり高い)で言うと法廷録音に関する制裁裁判とか、少しローカルなニュースで言えば改正民法に基づく枝切除のニュースとか、追いたい事柄が尽きない。
いろいろ書きたいことはあるが、ひとまず今回、性をめぐる法律の動きについて2点、備忘メモを残しておくことにする。
※後日注記:1点目(刑法改正)が長くなったのでひとまず擱筆し、残る1点(LGBTQ関係)については、時間ができたら後日書くことにさせていただこうと思います。

 

 

 

 

 

刑法改正について

超デカい改正である。性犯罪関係の改正。

改正の経緯

▼改正に向けた大きな契機となったのは、2019年3月に出た4件の性犯罪無罪判決であった(と思われる)。特に、実父からの性虐待が認定されたにもかかわらず無罪となった名古屋地方裁判所岡崎支部平成31年3月26日判決(名古屋高等裁判所令和2年3月12日判決で逆転有罪、最高裁判所第三小法廷令和2年11月4日決定で原審判決確定)のインパクトは大きかった。

▼僕は経緯をリアルタイムで逐一追っていたわけではないが、法制審議会(刑事法(性犯罪関係)部会)に諮問されてからの議論の経緯は、法務省HPで確認できますね。第1回部会の開催が令和3年10月27日であり、当該部会の議事録によれば、

・「本年9月16日,法務大臣から,「性犯罪に対処するための法整備に関する諮問」(諮問第117号)がなされ,同日開催された法制審議会第191回会議において,この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。」(p1)

・「平成29年6月に成立した刑法の一部を改正する法律により,性犯罪の罰則について改正が行われましたが,改正法附則第9条において,「この法律の施行後3年を目途として,性犯罪における被害の実情,この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」こととされました。法務省では,この検討に資するよう,平成30年4月から,省内の関係部局の担当者を構成員として,「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を開催し,各種の調査・研究やヒアリング等により実態把握を進め,令和2年3月,その取りまとめ報告書を公表しました。そして,同年6月から,被害当事者,被害者心理・被害者支援関係者,刑事法研究者,実務家を構成員として,「性犯罪に関する刑事法検討会」を開催し,同検討会において,性犯罪に関する刑事の実体法・手続法の在り方に関する様々な論点について,法改正の要否・当否の議論が行われ,令和3年5月,検討結果として,更なる検討に際しての視点や留意点が示されるなどした報告書が取りまとめられました。法務省においては,この報告書を踏まえて検討し,近年における性犯罪の実情等に鑑み,この種の犯罪に適切に対処するため,所要の法整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものです。」(p5-6)

とのこと。

▼で、14回にわたる審議が行われた。最終部会開催日は令和5年2月3日となっていて、その結果を踏まえ、同月17日に法相への答申がなされている。これを踏まえて法務省から国会に法案提出が行われたのが同年3月14日。国会で可決されたのが同年6月16日、公布が同月23日、施行が同年7月13日*4

▼この間、5歳差要件の是非をめぐってちょっと議論がありました。*5*6改正刑法は13~15歳との性交等については①5歳以上の年齢差がある場合につき②同意の有無を問わず処罰対象としてます。この①の要件が入れられたのは、同年代との恋愛に基づく性交等を処罰対象から除外するためなのですが、これに対し、大要、「いや、そもそも(5歳差未満なら)16歳未満と性交できること自体がおかしい、5歳差要件などなくし、16歳未満との性交はぜんぶ処罰対象とせよ」、という反対論が上がったことがありました。*7*8*9与野党協議も行われましたが、結局、同要件は維持されました。*10

 

 

改正の結果

こちらのページの「改正法等の概要」のところで、法務省が、分かりやすくまとめてくれている。
 ざっくり分けると、①『強制』性交等罪を『不同意』性交等罪に変更し、構成要件を改正・整備したこと、②未成年の保護を強化したこと、③手続法の側面からも被害者保護を強化したこと、④撮影罪を新設したこと、という4つに分けられると思う。*11

▼『④撮影罪を新設したこと』について

・きちんと議事録等を読んだわけではないが、ⅰ撮影した画像や動画が存在することが、より、不同意性交等の被害を深刻化・長期化させる側面があるし*12、ⅱそもそも同意なしの撮影行為自体当罰性のある行為でもあるのだが、今まで条例レベル(+児ポ製造罪等)の規制しかなく、処罰の間隙を生じてもいたため、それらを禁圧する趣旨で新設された、というあたりだろうか。*13

・新法(性的姿態撮影等処罰法)を立法しての解決となった。条文はこちら

・1条すなわち目的規定は次のとおり:

「この法律は、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することを目的とする。」

・処罰対象となるのは大きく5つ、
 (1) 他人の性的な姿を一定の態様・方法で撮影する行為
 (2) (1)の撮影行為により生まれた記録を提供したり、公然と陳列したりする行為
 (3) (1)の撮影行為により生まれた記録を、提供・公然陳列の目的で保管する行為
 (4) 他人の性的な姿を一定の態様・方法でライブストリーミングにより不特定・多数の者に配信する行為
 (5) (4)の配信行為により送信された影像を記録する行為
であり(上記法務省HP下部のQ&A参照)、このうち(1)の「一定の態様・方法」というのは、
 ⅰ 正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為
 ⅱ 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ、又はその状態にあることを利用して撮影する行為
 ⅲ 誤信をさせ、又は誤信をしていることを利用して撮影する行為
 ⅳ 正当な理由がないのに、16歳未満の者を撮影する行為(13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長の者であるとき。)
の4類型。(1)ⅰ~ⅳの条文は以下。

2条(性的姿態等撮影)1項
:次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。
①正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
 イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
 ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治40年法律第45号)第177条第1項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
②刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
③行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
④正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為

 

▼『③手続法の側面からも被害者保護を強化したこと』について

:公訴時効期間の延長と、伝聞法則の例外の承認の2つである。

【公訴時効期間の延長】

被害深刻がしづらい犯罪類型であること、殊に被害者が子どもである場合は尚更ハードルが高いことに照らし、公訴時効期間を延長する改正がなされた。

刑事訴訟法250条
3項:前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての時効は、当該各号に定める期間を経過することによつて完成する。
 ① 刑法第181条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同法第241条第1項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和5年法律第9号)第4条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 20年
 ② 刑法第177条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪 15年
 ③ 刑法第176条若しくは第179条第1項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第60条第1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 12年
4項:前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に18歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによつて完成する。

(なお、刑法176条が不同意わいせつ、177条が不同意性交等、179条が監護者わいせつ及び監護者性交等、181条が不同意わいせつ等致死傷。)

通常、公訴時効期間って、罪の重さに比例して決められているのですが(250条2項)、性犯罪関係の罪は「前項の規定にかかわらず」という形で完全に別物扱いして切り分けたわけですね。

【伝聞法則の例外の承認】
:被害者の方が公判で証言することの心理的負担や困難性、それがかえって二次被害を生じること等の問題に照らし、法廷外での証言*14を証拠として使いやすくする改正がなされた、というまとめ方になろうか。

刑事訴訟法321条の3
1項:第1号に掲げる者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間における供述及びその状況を記録したものに限る。)は、その供述が第2号に掲げる措置が特に採られた情況の下にされたものであると認める場合であつて、聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるときは、第321条第1項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
 ① 次に掲げる者
 イ 刑法第176条、第177条、第179条、第181条若しくは第182条の罪、同法第225条若しくは第226条の2第3項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下このイにおいて同じ。)、同法第227条第1項(同法第225条又は第226条の2第3項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第3項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくは同法第241条第1項若しくは第3項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者
 ロ 児童福祉法第60条第1項の罪若しくは同法第34条第1項第9号に係る同法第60条第2項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第4条から第8条までの罪の被害者
 ハ イ及びロに掲げる者のほか、犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
 ② 次に掲げる措置
 イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置
 ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置
2項:前項の規定により取り調べられた記録媒体に記録された供述者の供述は、第295条第1項前段の規定の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。

法制審議会の部会では、第5回と第11回に議論がなされていますね。改正動機については、特に第5回議事録に詳しい。
・ただ、どうなのだろう。審議では性犯罪被害者の、それも児童の負担の力説に多大な時間が割かれていたし、議論の土俵もそれを前提に進んでいたように読めるのだけれど、実際の条文は、性犯罪の被害者にすら限定されていない(1項1号ハ)点で、ちょっとズレを感じる。確かに例外規定を設ける(ゼロを一にする)以上、理論的には問題は自ずと他の犯罪類型にも波及するのだろうけれど、少なくとも、審議会が諮問を受けた範囲を超えて答申しちゃったことは否めないんじゃないのかな。
・法律的な建付けについては、審議の過程で、反対尋問の機会を保障するかどうかの二択をめぐり議論がなされた結果、改正法は保障を残した。反対尋問不要派の方からすれば改正の意義は減じられてしまったことにはなるが、本条が活用されるようになれば、主尋問プラス調書作成のための長時間のP・K聴取の負担は軽減されるわけだから、*15やはり相応の意義はあったとも評価し得る。
・運用面による影響がすごく大きいのではないかな…という印象を受ける。少なくとも、司法面接聴取の主体の問題と、聴取前汚染の問題はかなり重要なんじゃないか。この点については日弁連の意見書に賛同する。

 

▼『②未成年の保護を強化したこと』について

:性交等同意年齢の実質的引上げ(とでも言えばいいのかな)と、面会要求等の罪の新設。

・前者が、前述した5歳差要件とも絡むところで、今までは13歳だった(13歳未満との性交等は絶対禁止で処罰対象)ところ、13歳では低すぎる、判断能力が十分に備わっているとは言えないとして、16歳に引き上げられた、ただし、その狭間の13歳以上15歳以下につき、同年齢どうしの真摯な恋愛に基づく行為に当罰性を認めるべきかは疑問があり得るため、5歳差要件を設けた、というもの。

・後者は、いわゆるグルーミングと呼ばれる行為群を処罰するもの。審議会議事録での各委員・幹事の発言(p17以下)はとても説得力があった。全面的に賛同する。条文は以下。

182条(十六歳未満の者に対する面会要求等)
1項:わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
 ① 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
 ② 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
 ③ 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2項:前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該16歳未満の者と面会をした者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
3項:16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第2号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
 ① 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
 ② 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

 

▼『①『強制』性交等罪を『不同意』性交等罪に変更し、構成要件を改正・整備したこと』について

:これが、一番の目玉とでも言うのか、報道等での扱いが大きいところですね。ひとまず176条・177条それぞれの1項だけ抜粋する。

176条(不同意わいせつ)1項
:次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
 ① 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
 ② 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
 ③ アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
 ④ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
 ⑤ 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
 ⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
 ⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
 ⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

177条(不同意性交等)1項
:前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。

 

・まず第一に、従来罪とされてきたのは「強制」わいせつ・性交等であった、その「強制」性を裁判上立証しなければならないハードルが高すぎ、当罰性のある行為を処罰できていない、という問題意識があった。そこで、これを「不同意」わいせつ・性交等と改めた。これは、裁判のハードルを下げたということでもあるし、そもそも、同意がないセックスは許されない、という、いわばまっとうな性規範の当然の反映でもある、とされる。

・で、第二に、今回さらに、その「同意がない」類型を8つに分けて例示した。いわば例示列挙と包括的要件の二段構えとすることで、処罰範囲を明確にし、規程の安定的運用を可能にすることを狙った。*16以上に伴い、旧法の177条・178条の区別は解体された。

 

 

で。

 

 

今まで捕捉できなかった行為を拾えるようになった改正であり、被害者の精神的救済に資する点において、大いに賛同すべきものであり、たぶんその点で異論を言う人は誰もいない。もちろん僕も含めてである。

ただ、「この条文の仕上がりで法定刑下限5年というのはちょっと…」、という印象は正直、ある。

・一つには、177条1項柱書に「その他これらに類する行為又は事由により」という文言が入っていること。審議会部会でも意見は出たし、3つの弁護士会大阪埼玉岩手)が会長声明を出して指摘しているが、結局そのまま残っている。
・もう一つは、条文が二段構え構成をとっていることにより、かえって事実上、「各号に該当すれば不同意が推定され、被告人のほうで同意があったことを立証せねばならない」、というような運用になりかねないのではないか、という点。一応、審議会の議論では、そういうふうには捉えられていないように見受けられるが*17、事実、早くもそういうふうに解説している弁護士ブログもある。仮にそうなった場合、(本改正に関してしょっちゅう表明される懸念だが、)酒に酔って致した後に仲違いしたケースとか二股がバレて「あいつには無理やりされたの!」旨弁解がされたケースで、簡単に人の人生が破壊されてしまう。*18倫理的に禁止されるべき行為を刑法典が率先して言語化・類型化して定めることが社会へのメッセージに繋がり、日本の悪しき文化土壌変革の嚆矢となるのだ、みたいな委員の意見も見受けられたが、*19正直、逆ですよ。何をすべきでないかを法律実務家として人様(特に男性)にアドバイスすることを念頭に置いた場合、遺憾ながら、行為規範を導くのが甚だ困難だと言わざるを得ない。安全策を採ろうとすると、すべきでない範囲が非現実的に広くなる。

 

 

今般の改正法については、入管法改正との関係で時間切れ廃案の可能性が浮上した際、それを強く懸念する声が各方面から上がった。また、最終的に可決され成立した際には歓迎の声が大きく沸き起こったし、その中には、多数の弁護士実務家の声も含まれてもいる。
男性側としては、今まで女性側が強いられてきた危険意識に思いを致して真摯に受け止めるべきところであろうとは思う。

 

 

ただ、それを踏まえてなお、法律家の立場として、懸念は感じざるを得ない。
内容のある結語で終われないのが非常に遺憾なのだが、今後を注視していきたいと思う。

 

 

 

 

 

 


ひとまずおわり。

長くなってしまったし、*20司法試験実施期間中に書き始めたのに、今、もう試験が終わって数日が経ってしまっている。
受験生の皆様、遅ればせながら、本当にお疲れさまでした。*21

 

 

LGBTQ関係については、また時間ができたときに、改めて書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

*1:問題文のボリュームではなく、「問題に答えた」と言えるために最低限書く必要がある解答の分量。

*2:民法で賃借権の時効取得が聞かれたことと、民訴を解きながら「これは多分、過去問の中でも良問になるだろうな…」とかって呑気に考えたのだけは覚えてる。商法はホントに記憶にない…。

*3:予備校答練の添削の経験から言うが、読めない答案は本っっっ当にきったなくて、読めない。

*4:正確に言うと、公訴時効期間延長は公布と同時に施行、伝聞例外新設は令和5年年内に施行、押収された性的姿態撮影画像等の消去・廃棄に係る規定は令和6年6月までに施行、その他が令和5年7月13日に施行。

*5:これも正確には、法制審議会の部会内部でも議論はあったわけではあるが。第3回議事録p24以下など。

*6:性犯罪をめぐっては今後また何かのきっかけで再改正の機運が高まることも蓋然性があるし、その場合、この5歳差要件問題が再燃する可能性も大いにあるので、備忘のため書き残します。

*7:厳密に言うと、同反対論の主張者が、「15歳未満との/15歳未満の性交等を一律に禁止せよ」、という主張をしているのか、それとも「年齢差要件を残すにしても5歳差は広すぎる、もう少し狭めるべきだ」という主張をしているのかは、区別する必要はある(両者は全然違う。)。

*8:例えばこの記事参照

*9:この議論の過程で、元東弁副会長の立場にある先生が、大要「捜査機関の適切な運用に任せれば良い」と放言なさったのには驚愕を通り越して強い怒りを覚えた。若輩ながら申し上げるが、同発言に示された見解は、弁護士として著しく不適切な内容であると思料する。

*10:僕の意見は、ある先で生による2つのツイート(2023/5/182023/5/21と同意見、に尽きる。なお、念のため付記するが、改正後の刑法不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期懲役である一方、少年法62条2項(これも近時改正法が施行されたばっかりですね。)は短期1年以上の罪に当たる行為を特定少年が行った場合には原則逆送対象となることを定めている。よって、「(捜査機関ではなく)家裁の良識的処置に任せれば良い」という議論は、少なくとも特定少年に関する限り、成り立たない。

*11:その他、不同意性交等罪が夫婦間であっても成立し得ることについて確認的文言を置いたこととか、性交等の行為の範囲の見直しが行われたこと等。

*12:要は、それをネタに脅迫され得る。

*13:とある記事で盲を開かされたのだが、考えてみれば確かに、機上でのCAさんの被害は条例ではカバーが難しいな。7割の方が被害体験あり、というのはひどい。お恥ずかしながら初めて知った。

*14:「司法面接」と呼ばれる手法によるもの。「性犯罪に関する刑事法検討会」第2回会議で仲先生がご提出された資料がとても参考になる。

*15:ここ、こういう理解で良いのだろうか。つまり、321条の3ができたことで、捜査機関側としては、被害者聴取は早期1回きりの司法面接が肝要であり、従来のような、長時間の詳細な調書作成、つまりは聴取は控えるべきだし(少なくとも公判対策としては)意味が乏しい、と考えるようになるものと想定したのだが。

*16:第三回部会議事録p20。

*17:第10回議事録p23の浅沼幹事発言等。

*18:「アルコール…の影響があること」「により、同意しない意思を形成…することが困難な状態」「にあることに乗じて」性交等した場合は177条の罪に該当してしまうわけだけど、これ、弁護士の立場としては、特に怖い。

*19:第10回議事録p21にある小西聖子委員(武蔵野大学教授)発言(「性的な暴力に関しては特に偏見が多い社会の中で、意識を変えていくためには、やはり条文にどういうことがよくないのかということを具体的に例示していただく必要があると思います。」)。これは公益的見地から勇気を出して私見を述べるが、謙抑性が求められる刑罰法規に対してそういう機能を期待するのは委員として不見識だし、非難に値する発言だと思う。

*20:言ってるそばから新しいニュースに接したのだが、「『経済・社会的関係に基づく不利益の憂慮』に関し、どのような関係性か不明確で、運用注視が必要だ」って…寺町先生、それどういう意味です?改正法の文言の不明確性なんてずっと言われてることじゃないですか、何を今さら仰っているのですかね。それとももしかして、狭く解釈運用されることに対するご懸念の表明なんでしょうか。

*21:さらにさらに言ってるそばから、今年の司法試験の刑法短答(7/16実施)で、「試験実施時既に改正法が施行されているにもかかわらず(7/13施行)旧法を前提とした問題を出してしまい、しかも「旧法を前提として解答せよ」ってアナウンスをするのを忘れてたから、どうするか委員会で検討してるぜ。」という案内文が法務省HPにアップされた。当記事のネタ2つがどストレートにかぶっていてちょっとびっくりしているし、仮に没問になるとすると相当珍しい事態だって意味でも驚きである。