だから僕は法律を

弁護士業界のありふれたことや、日々の法律ニュースなどを

【ニュース】書き散らしから始めよ

(約2500字、ただし条文込み。)

 

以前、匿名ブログでも法律ネタを書いていたのですが、
「せっかく書くなら多少はしっかり書きたい」

 

…という欲をかいてしまうと、全然、筆って進みませんね。ホントに*1
なので、このブログは軽め・書き散らし寄りに行こうかなと思ってます。
思いつきレベルのこともメモレベルのこともとりあえず形にしとこう、と。

 

本日は、近時、同方向な事案に関する刑事事件ニュースが2つ流れてきたので、軽くまとめておきたいと思います*2

 

 

【事案1】殺人教唆未遂被疑事件

報道要旨…

①(10月24日午前3時半ごろ、河川敷で)A1さんが、男子高校生Xさんに対し、けんか相手の男子高校生V1について「タイマンは殺し合いや」「死ぬまでやらんかい」「武器使ってええからやってしまえ」などと声をかけた疑い
②Xさんは、V1さんに金属製の重り(約8kg)を投げつけたとして、殺人未遂容疑で逮捕されている
③V1さんは頭蓋骨骨折などの重傷(加療約1か月)を負った
④XさんとV1さんは警察に対し、「タイマンするために河川敷に移った」と説明している
⑤XさんとA1さんは知人で、事件の直前、Bさんとトラブルになっていた
⑥けんかの間、周りには2人の知人数人がいた

 

実名報道はいかがなものかと思うので、リンクは貼りません。

 

ふむ。
以下、報道が事実であれば、という仮定の下での検討です。
⑴前提として、Xさんの行為の殺人罪実行行為性について
 この種の事案(激情型と思われる)の場合、要するに
 「当該行為を客観的に見て、殺人結果に至る高い危険性があり、被疑者がそのことを認識した上で当該行為に及んだ」*3
 と言えれば、殺人罪とされる行為に当たる、と解釈されています。
 で、筋トレされる方はよくわかると思いますが、8kgの重り、結構な重さです。
 仮に、報道されてることが事実で、ほんとに文字通り「投げつけた」感じで、投げつけた先が顔面であれば、肯定される可能性は十分ありますね。
教唆といえるかについて
 実務上珍しい教唆犯(狭義の共犯)*4
 さて、教唆とは、「他人をそそのかして犯罪を実行する決意を生じさせること」です。
 普通に野次馬が多少過激なことを口走った程度では認められんと思います。公共の場でケンカに及んどいて野次馬に野次られて初めて何かを「決意」したってのもなかなかイメージしづらい話です。
 ただ、確かに、
 ・けんかをしたのが数人の目しかない「河川敷」=それなりにクローズドな場であって、けんかそれ自体に至る心理的ハードルが一般公衆の面前と比べれば多少低い一方で
 ・生じた結果が殺人未遂と重大であり、「けんか始めた時点でその程度織り込み済みでしょ」、とは評価できないケースであって、
 ・当事者が子どもで、取り巻きが知り合いで、しかも大人で、自分といっしょに被害者さんとトラブルになった人で
 ・浴びせられた発言も、「武器使ってええから」というヤジに収まりきらない具体性のある代物で
 ・それでついカッとなって
 …という事案であれば、あり得るように思います。

 

 

【事案2】決闘罪ニ関スル件違反被疑事件

報道要旨…

①(8月4日午前0時半ごろ、ガールズバーで)ガールズバーの『実質経営者』A2さんが女性2人に対し、「お前らタイマンせえや」「場所用意したるわ」などと言って決闘をするよう指示した疑い
ガールズバーでは、10代後半の女性従業員3人(Yさんを含む。)と元従業員の女性V2さんの間でトラブルが起こり、V2さんが無断で店を辞めていた
③このことに腹を立てたA2さんがYさんに対し決闘を指示し、Yさんは指示に従ってLINEでV2さんを呼び出した
④A2さんとYさんは約5分にわたって殴り合い、最後はYさんが血を流してその場に倒れ込み首の捻挫など全治10日のケガをした

 

恥ずかしながら初めて知りましたね、決闘罪

法令名「決闘罪ニ関スル件*5、全6条、1889年12月30日公布。

第1条
決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応シタル者ハ6月以上2年以下ノ重禁錮ニ処シ10円以上100円以下ノ罰金ヲ附加ス
第2条
決闘ヲ行ヒタル者ハ2年以上5年以下ノ重禁錮ニ処シ20円以上200円以下ノ罰金ヲ附加ス
第3条
決闘ニ依テ人ヲ殺傷シタル者ハ刑法ノ各本条ニ照シテ処断ス
第4条 
Ⅰ:決闘ノ立会ヲ為シ又ハ立会ヲ為スコトヲ約シタル者ハ証人介添人等何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス1月以上1年以下ノ重禁錮ニ処シ5円以上50円以下ノ罰金ヲ附加ス
Ⅱ:情ヲ知テ決闘ノ場所ヲ貸与シ又ハ供用セシメタル者ハ罰前項ニ同シ
第5条
決闘ノ挑ニ応セサルノ故ヲ以テ人ヲ誹毀シタル者ハ刑法ニ照シ誹毀ノ罪ヲ以テ論ス
第6条
前数条ニ記載シタル犯罪刑法ニ照シ其重キモノハ重キニ従テ処断ス

 

たぶん、2条の共同正犯、ということでしょう。4条じゃなく。

 

…ふむ…。
以下の文章は、特に何も調べないで書いてます。悪しからず。
(調べたところで、決闘罪に関して現実的に用を足せる文献なんて、あるんですかね?)

 

決闘。
決闘に及ぶ二者は、差し当たりは、自身の個人的法益に対するお互いの侵害については承諾をしていると考えられます。
となると、一つの考え方として、
「刑法に任せたのでは被害者の承諾ゆえに違法性阻却となってしまうケースを捕捉し、私闘を禁圧するのが立法趣旨だ」
という説明が、成り立たなくはありません*6
もし仮に、こういう理解を前提とするなら、
「人に言われて決闘したが、本意じゃなかったんだ、任意かつ真意の承諾なんてホントはないんだ」
というケースまでを2条で捕捉するのは、多少、違和感を感じなくもない。

 

…とはいえ、
「決闘に至る心理過程に一定以上の他人の関与があった場合には決闘罪の成立を否定する」
なんて立場、ナイーブすぎて現実の用に耐えられない気もする。明確性の確保もしようがないですし。
よって結局、本件を決闘罪で処理するのも、妥当ということになるのかな。

 


決闘罪の保護法益論と捕捉範囲を純粋に学問的に検討するのは、知的に面白い作業だろうな、と思います。

 

 

*1:いや、難燃性というか、いざ書き始めてしばらく経てばスイッチ入るのですが、そこまで行くのがしんどいのです。

*2:と思って書きだしたのに、結局2500字くらいになってしまった。我ながら、もっと軽めで行きたいな…。

*3:平たく言えば、「人が死ぬ危険性が高い行為をそのような行為であると分かって行った」

*4:まあ正犯意思の認定はきついですねこの事案では。

*5:正確に言うと、法令名は「ない」らしい。「決闘罪に関する件」というのは便宜的に与えられた呼称にすぎない、とのこと。マジか。

*6:重大な身体・生命侵害については、話が面倒になるのでひとまず措いておくことにする。